夜這いのことを話には聞いたことがある。夜に忍んでいって、縁側の雨戸をとんとん叩いたら入れてくれたみたいな話である。戦時中は戦争未亡人のところに夜這いに行ったもんだなんていう話もある。思い返してみればそれすらも伝聞だったが。
風聞にしかすぎなかった話が民俗学者の手によってきちんと記録された。
「えっ、嘘でしょ」「ほんとにそんなことがあったの?」「そんなことあるわけないよ」「田舎のはなしでしょ」「いやー、手当たり次第だなんて、そんな時代に生まれたかった」「それじゃあ、女は男の性の奴隷じゃない」というのが多くの読者の第一声だろう。
「夜這い」「若衆宿」「筆おろし」。聞きかじっていただけの話がいきいきと語られている。衝撃的だった。わたしたちの数世代前までこんな風習があったとは。日本全国ということではないし、すべての階層というわけではないだろうが、農村だけでなく関西の都市部でも、人々がこんな感覚だったというのは驚きだ。体験をベースにフィールドワークを記録する著者はほんものの民俗学者なんだろう。筆致はリアルで力強く、民俗学の記録がこれほど面白いものだとは思わなかった。
「日本人のおおらかな性というのは別段、源氏物語に遡るまでもなくつい百年前まで日常だった」なんていう観念は、この記録の前では吹っ飛んでしまう。
ここには余分な価値観や近代が持ち込んだバイアスがない。性に所有やエゴが入ってきて、激変していく社会や男女の関係性のなかで、わたしたちは、こんな社会をもっていたのをもう一度立ちどまって見るに貴重な本だ。
数日前、BSで「セックスと嘘とビデオテープ」をやっていた。女性の性の告白をビデオにとる話だ。なんだか主人公と本書の著者が重なって見えた。
馴染みのバーのママのチャイナドレスの尻にひかれて触ってしまった苫小牧市長にも、手鏡でTV界も教職も負われた先生にも、事件を興味本位で眺めた諸君にも是非一読をおすすめする。その哀れで人間的なあまりに人間的な態度をわがこととして笑うだけでいいのに、世の中かしましい。何といってもセックスレスや少子化を食い止めるには、いまや豊かでおおらかな性の復権は必須だというのに。



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