「百薬の長」の謎ときはなかなか難しい。赤米はポリフェノールが多く含まれる、とか乳酸発酵飲料みたいなものじゃないかとか、いろいろ言われる。
確かに酒度は7~11°で、飲み口はさわやかな乳酸飲料だから、我々が思い描くアルコールとは違う。かつては麹臭がしたのでどぶろくシャンパンと名付けたのだけど、酒をイメージされないほうがいいので、私は「古代酒」と呼ぼうと思う。というのは、ここに生きているのは古代の知恵だからなんだ。古代米、炭素埋設した田んぼ、発芽玄米、それらが指し示しているものは「古代」に学ぶことだからだ。
発酵醸造には、この古代から連綿と伝えられた知恵が潜んでいる。寺田本家は延宝年間にできた三百年以上の歴史ある老舗だけれど、伝統を今に活かす「温故知新」は口で言うほどやさしくはない。
で、今起きていることを理解するために、かつて、伝統的発酵と醸造を守り育てるという「和蔵会」をやっていた片山さんに聞いてみた。「むすひ」はどういう発酵をしているのかである。そうしたら、乳酸発酵もしているけれど、それだけでない。すごく複雑な発酵だとのことだった。
普通の酒づくりでは、乳酸発酵からアルコール発酵、酢酸発酵に移っていくんだそうだ。(ちなみに乳酸菌を入れるところもあるらしい)完全に酢酸発酵したら酢になってしまう。ワインがワインビネガーになる過程だね。いわばふつーの酒は菌叢がはっきり移り変わっていくんだけど、どうも「むすひ」はたくさんの種類の菌(微生物)がいるってことらしい。
だから、寺田本家のような酒づくりをすると、ふつうの酒づくりに不要な菌が住み着いてしまう。これを雑菌と呼ぶらしい。蔵には、住んでいる菌による「蔵ぐせ」ができるというから、端麗辛口の吟醸酒をつくっているような他所の蔵では、「むすひ」が百薬の長だとわかってもなかなか踏み切れないらしい。吟醸・大吟醸なんかは、米を半分くらいにまるく削った芯白で醸すんだけれど、そのとき捨てられる栄養の宝庫である胚芽の部分なんかは「雑味」と呼ばれる。当然からだにいいわけがない。糖尿病の素だ。
米へんに白と書いて粕というのと同じで、白米はカスを食べるようなものだから、玄米や分つき米にしたほうがいいというのは玄米菜食の人のいい分だけど、雑味も雑菌も人間の都合で名づけられるわけだ。
人間はさまざまなものを混沌から秩序に変えてきた。それをまあ進歩って呼び、ここへきて、世界は複雑系だってことがわかってきた。
じつは私たちが見てきたことって、複雑な世界を自分が理解しやすい部分に単純化することだったんだ。だって「雑菌」「雑味」はないでしょ。「雑菌」「雑味」は。自分の腸で乳酸菌が働くには大腸菌が必要だっていうのが微生物の世界だからね。
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