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かつてブルーベア・カフェっていうのが原宿のはずれにあった。スターバックスなどと同じアメリカのカフェ・チェーンのようだった。ここはお気に入りだった。両横をビルに挟まれた引っ込んだ小さな前庭をウッドデッキにした、テラスのある店を最初目にしたとき浮かんだのは、こんなビルの谷間の猫の額みたいなところに庭つくってもしょうがないだろうにというものだった。
でも、それは違った。夏はシンボルツリーの緑陰が気持ちいい。事務所の近くだったから仕事の合間に文庫本持って気分転換に行ったんだけれど、だんだん混むようになって、テラスに座れないことも出て来た。噂を聞きつけためざとい人たちが来るようになったのだ。
それでも、寒い冬は閑散としていた。ビルの陰だから、幸い風は当たらない。テーブルに一台の割で石油ストーブがついていて、椅子にはブランケットがかけられている。膝にブランケットをかけ、ストーブに手をかざし、炎を眺める時間は冬の寒さを味わう最高のひとときだった。冷え込んだ日には、早々に店内に退却したものだが、今でも私はこういうのが好きだ。
「寒さを楽しむ」「暗さを楽しむ」「狭さを楽しむ」こういう発想を日本人は忘れてしまったようだ。陰影礼賛も坪庭もあったというのに。和風ブームと居酒屋ブームのおかげで、「暗さを楽しむ」のは復権したようだ。
池袋はかろうじて私がよく行けるところだ。その池袋でよく行くのが東口の中池袋公園前にあるドトールだ。公園が借景になっているというほどではないけれど、店の外にテーブルが二つ出ている。それだけである。カフェテラスというほどのものではない。
パリのカフェテラスを謳い文句にした竹下通り口の「オーバッカナル」には数回しか行ったことはない。閉店時にはコンサートまであったというカフェ・ファンお気に入りの店だったようだ。でもわたしには、なんだかぴったりしなかった。店づくりからメニュー、サービス、什器、何から何までフランスから持ち込んだ正真正銘のパリのカフェを売り物にしている店は好きじゃなかった。だいたい、フランス風を売り物にするって、いちばんフランスっぽくないんじゃないかとわたしは思ってる。「カフェ・ドゥ・ラペ」とか「フロール」「ドゥ・マゴ」に行く人にはいいんだろうが。それに比べると、このドトールのほうが、ずっとパリのカフェテラスっぽいんだ。わたしには。


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